こんにちは。Popといいます。

ここではSalute(伊:乾杯)というタイトルの連載を載せています。
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2024.02.22 
人気者!という言葉をありがと、と適当にあしらって、早希は智紘に任せるという視線を投げ掛けた。


「じゃぁ、今回は何がいい?」
「新しいのでやりたくね?」
「好き好きで男子のペア作って、代表が席を決める!」
「恥ずかしーだろ!」
「やん、純情ボーイ気取るなよな、プレイボーイ♥」
「きもいぞ、お前っ」
「男子ペアはくじで決めればいいんじゃね?」
「カップルは元から隣同士で!」
「マジで!?ナイスな提案!」
「ノロけないでよねー」


何と騒がしいことか。
早希は慣れた雰囲気に息を吐いた。
担任になったホープンも仲良しなクラスだと知っていたのだろうが、呆気に取られている。
教室に見渡すと皆が笑い合っていて、平和だな、としか思えない光景だ。
そして視界に入ったのは、少し吹っ切れたように笑う梓の姿。
まだ暗さは残っているようだが、クラスの雰囲気を落とさないための笑顔だと分かる。
伝えなきゃならないことを忘れていた。


「じゃぁ、くじ作るから。カップルの男の方は手上げてー」


はーい、と素直に挙手する顔も満面の笑み。恥じらいすらないらしい。
計3組のカップルは去年からの仲で、別れる気配すら無かった。
早希は興味無さげに視線を外し、外野に回った担任を一瞥してから目を伏せた。


「黒嬢さん、番号書いて」
「あぁ、うん」


何番までとは言わなかったが、クラスの半分引くカップルの数だけの番号を書けばいいことくらい、言われずとも分かる。
早希は渡された小さな紙の束に13まで書いて、それを旻に渡す。
ありがとうと言ってから智紘は、ふ、と考える仕草を見せて笑った。
それから見た行動にセコい奴だな、と思いながら早希はまた渡された紙を少し見て、息を吐く。


「じゃぁ、早い者勝ちね。男子は俺、女子は黒嬢さんところで引いてって」


それを合図に群がる男女。
早希の手にも智紘の手にも1枚も紙は残っていなかったが、誰もそれを気にする人間は居なかった。
ただ1人、早希を除いて。
――あれ?もしかして…。


「はい、じゃぁ、ペア探し始めて」


クラスがわいわい騒ぐ中、早希は呆然と立っていた。
ぽん、と叩かれる肩に振り向けば、智紘がにこにこと笑っている。


「黒嬢さんと俺、ペアね」
「…何で」


というのも早希が見たのは智紘が、男女の番号から同じ数字を抜いた所だった。
誰かと組むんだろうと、簡単に考えることを終わらせたが、翌々考えれば分かることだったのかもしれない。
差し出された紙に何故わざわざ、という思いよりも溜め息が先に零れた。
そしてやって来た旻を適当にあしらって、早希は自席に戻った。
席替えの結果、隣には智紘、前にはミアノラでその隣は転校生である雄未拓、早希の席は変わらず窓側の1番後ろだ。
そして見事反対側である、廊下側1番前に旻とアルアナのペアが座っていて、これは何とも言えないくじ運の悪さだと思った。
そして溜め息。ホープンの声など頭を素通りだった。

:::to be CONTINUE:::
2008.10.10 
「そういえば、エスクイリーノ先生とは何話してたの?」
「世間話だけど、…アクローポリに行くみたいだから、来てねって話」
「あぁ、来週の月曜だよね、確か」
「そうなんだ」


智紘は頷く。
早希はふーんと興味無さげに相槌を打って、やっと着いた中学部の校舎に歩調も変えずに入ってた。
事務員が「またサボりか」と笑っているのに、早希は曖昧に返事をしてから階段を上がっていく。
智紘はその隣を歩いていた。


「そういえば、担任はホープン先生だよ」
「…ライ・ルディ・ホープンだっけ?国語?」
「うん。あんまり出ないよね、黒嬢さんって」
「漏れ無く全ての教科は平等に扱ってる」
「狙って休んでるってわけじゃないんだ」


そんな軽口を交わし合って、教室に着く。
普通なら何かしら躊躇いがあるのでは、と昔は思っていたが早希は当たり前の様に教室に入っていた。
だが、今日は「先に入って」と珍しく頼まれ、少し意外に思いつつも智紘は教室の扉を開けた。
注目が集まるが、皆が納得したように笑う。本当に良いクラスだ、と改めて思った。
早希は何事も無かったかのように、掛けられた挨拶に応えながら席に着いていた。


「お早うございます、早希さん」
「お早うございます」
「2人共、調度良かった。今から席替えなんです」


智紘と早希に向けられたものだったが、早希は智紘に返答を任せることにしたのか無言で、智紘は「そうですか」と苦笑しつつ応えた。
どうやって決めるか、というのはパターンはあっても、何時も違う。
好きな場所を選んで、重なればじゃんけん。席と番号を一致させるくじ、あみだくじ。男女別々に廊下に出てやるお見合い方法。何時だったかは番号の書いた椅子を取り合う“椅子取りゲーム”だった。
男女は好き勝手にばらばら散らばっていて、他のクラスと比べても稀なことだった。
仲良し過ぎると言われても、べっとりとしたものでもなく爽やかな感じに見えるらしいので、悪く言われたことはないように思う。


「じゃぁ、僕はどうやって決めるか知りませんし、学級委員さんに任せます」


智紘は後ろの男子生徒に背中を叩かれ、笑いながら前に立った。
かっこいいよーという男子の声に便乗して、本気でそう思っているであろう女子も口に出す。
智紘は苦笑しつつ、早希を見た。早希は眠そうに目を細め、外に視線を向けている。
こうも本気で我関せずを貫き通せるなんて、いっそ清々しさを通り越して尊敬してしまいそうだ。


「早希ちゃーん、出番だよー」
「黒嬢、お前も学級委員だぜ!」
「サボりを反省する気になったかっ!」
「ははは!ほら、早く出ろって」
「早希ちゃん、頑張って!」


こんなに騒ぐことか、と早希はひくり、と頬を引きつらせた。
前の席の旻に関しては頻りに笑っている。
早希は無表情に立ち上がって、腕を叩かれながら教卓に向かう。そして、智紘から間を取って立った。


:::to be CONTINUE:::
2008.10.10 
智紘は早希の後ろを歩きながら、困ったように笑って声を掛けた。
調子狂うな、と少し愉快に思いながら。


「本当にそう思ってる?」
「一般的にはそうらしいよ、旻曰く。あたしは特に分からないけど、」
「けど?」
「意識的に行動してるなら、モテる理由が分かる気もする」
「へえ……そういうもんなんだ」


思い当たることもなく、智紘は首を傾げた。
早希はその反応をちらりと見て、少し息を吐いた。


「優男とかたらしとか、王薙は違う感じするけどね」
「それなら良いけど」
「天然たらしだ」
「………」


早希はそれだけ言って前を向いたが、「あ、結局たらしじゃん」と呟いた。
智紘は呆気に取られながら、やがて苦笑を溢し、旻に何をしてやろうと目論み始める。
果たして自分はたらしなのかと疑問なところだが、智紘にしたら大した問題ではなかった。


「それにしても、何で重要な学級委員にサボる奴を入れるんだろ……。今まで委員会とか避けてたのに」
「黒嬢さんってさ、意外と律儀じゃん。だから学級に迷惑を掛けないように、って思うのを期待して、真面目になると願ってるとか」
「律儀じゃないし、誰も期待してないって」
「まぁ、遅刻サボり居眠り不真面目は黒嬢さんの代名詞だからなぁ。結局は押し付けだよね、面倒だし」


確かに、と呟く早希とは久しぶりに取るコミュニケーションだが、少しだけ空気が和らいだ気がする。
春休み中にも何かあったのだろうか。早希の近寄りがたいと感じさせるものが、出会った当初から日に日に薄くなった感じだ。
それに、パティーライトは春休み中に劇的に変わっていた。
久しぶりに会った大人い友達がホストみたいになってました、みたいな夏休み明けのサプライズなら兎も角、先日までの大型連休は春休みだ。
どれだけ成長盛りなんだよ、と突っ込みたくなる。
まぁ、いいや。と言う早希の投げやりな言葉で、智紘は思考を切り替えた。


「ずば抜けて優秀な王薙と不真面目な奴が組んでも、プラマイ0どころかお釣りが来るんだろうしね」
「仕事はやらない?」
「まぁ、やる時はやるよ、それなりにね」
「やっぱり、律儀だね」
「律儀なら最初っからサボらないんじゃない」


正しいことを言ってる割に、やはり面倒なことはやらないらしい。
自己中と言ってしまえば確かにそうかもしれないが、他人のことは良く考えているのか、迷惑と言った迷惑は余り掛けない。
実際、智紘にとって普段からの仕事は1人でこなすに十分で、こうして早希の迎えに行くことも迷惑だとは思っていなかった。
早希がそれを分かっているかは兎も角、クラスのメンバーも早希を疎むことがないのが良い証拠だ。


:::to be CONTINUE:::
2008.10.10 
「黒嬢さん、居る?」
「居ないかな」
「はいはい、行くよ、黒嬢さん」


数十分経って1時間目がとっくに始まっている時、早希たちがもう来ないだろうと思っていた矢先に、1人の男子生徒が図書館に顔を出した。
LHRを1時間やってからSHRで帰宅という時間割の為に、早希はさっさと荷物だけ置いて始業式を回避していた。そして最後に荷物を取りに行って帰る、と予定を立てていたのだ。
だが、そうもいかないらしい。
早希は少しだけ溜め息を吐いて、だるい体を起こした。
そして口元に緩やかな弧を描く、王薙智紘を見遣った。
智紘は1年時にも同じクラスで、成績は学年で1番、スポーツ万能でサッカー部期待のエース。そして学級委員長で、―――学年1、そして学園内で“モテる”部類の上位に居ると言われている。
早希にとって、二重人格だった誰かさんがリンチに合っていた時、それを再認識させられたのが記憶に新しい。
そして、学級委員長という立場からか、サボる生徒を連れて来る任務が度々舞い込んでいた。
サボり常習犯の早希にとっては迷惑な任務であり、元からクラスには授業を抜け出してサボる生徒が皆無なので、ほぼ早希だけに向けられた仕事だ。
智紘には全体的に爽やかな感じを受けるのだが、案外考えることは策士だったりする、と少しの付き合いながらも早希は察していた。


「同じクラス?」
「大きな入れ替えはないからね。数人が移動するくらいだけど、俺らのクラスに変動なし。黒嬢さんには残念かもしれないけど、同じクラスだよ」
「……飛び級断ったんだね」
「まぁね。学生を長い間楽しみたいし」
「そりゃ、残念」
「今年もよろしく」


早希の感情の篭らない、嫌味らしい言葉を智紘は軽く流した。
話に加わるつもりがなく、そのまま読書を続けているエスクイリーノに早希は「じゃぁ、また」と声を掛けた。
軽く手を上げながらの応えが返ってくるのを見て、智紘と図書館を出ると、先程のテンポのまま会話が始まった。
早希がサボり、智紘が連れ戻す関係だったからか、比較的に良く話す仲だ。
お互いがそれをどう思っているかは兎も角。


「そうそう、LHRで最初に学級委員が決まったんだ」
「へえ」
「もう決まったから、変えられないんだけど、」
「うん」
「黒嬢さん、学級委員ね。俺と一緒に」
「………」


早希が無表情に黙った。
だが智紘は返答すらなかったが、何てこった、と早希は考えているんだろうな、と思った。
そして、受け入れてから「めんどくせ」とぼやくんだろうな、とも。
指通りの良さそうな真っ白な髪が靡くのを見て、智紘は不意に手を伸ばして触れていた。
その真っ白な髪は地毛なのだというが、白髪と言うには光沢があり綺麗だ。


「何?」
「綺麗な髪だと思って」


ふうん、と早希はほぼ無反応に近いものを返して、智紘から視線を外した。
早希らしい反応だ。
間もなく、静かに歩いていた早希が不意に振り返えった為、智紘は驚いて目を丸めた。


「優男」
「え……」
「たらし」
「………えっと、」
「女好き、自意識過剰」
「………いや、黒嬢さん……?」
「否定しないなら、自覚あり?」


早希は独りでに納得して、すたすた歩いて行ってしまった。
試された―――……?


:::to be CONTINUE:::
2008.10.10 
「話を戻すが、今年はラクリマに来るんだな?」
「うーん……」
「アヴェンティーノが特に喜ぶから、来て欲しいんだが」
「……?」


早希は喜ばれる節が思い付かないのか、眉を寄せた。
アヴェンティーノと言えば、少し気弱に見えて誰にでも敬語を使う人だが、真面目になると敬語が外れ、気弱という言葉の欠片も残らない人へ変貌する、根っこが優しいだけと言われる人だ。
―――その人が喜ぶ?
早希の様子を見たエスクイリーノは口を挟む。


「癒しだそうだ。アヴェンティーノは年上に中々恵まれないから、年下の黒嬢さんとは気が合うというか……何というか、……そんな感じだな」
「……、……職場から逃げられるから、ここに来るのが楽しみって言ってましたよ」
「……そんなこと言ってたのか」


就職先を間違えましたね、と仲間内だったならば言えたが、そんな軽口は早々に飲み込んで、早希は相槌を打つ。
日数を増やしてやるか、とエスクイリーノはぶつぶつ言っていたが、やがて早希に笑顔を向けた。
図書館の常連の中には、エスクイリーノ目当ても居ると聞いたことがあったが、納得出来る理由は容姿の良さにあるわけだ、と早希は頭の片隅で改めて思った。


「そういうわけだから、来てくれないか?俺も歓迎する。……まぁ、生徒全員は漏れなく歓迎なんだが」
「嫌な生徒でも居るんですか?」


呆れたような声色に、早希は首を傾げた。


「仕事を増やす奴らだ。毎年、必ず荒らして帰るから困ったもんだよ」
「はぁ、成る程」


早希は間の抜けた返事をして、後の続かない愚痴を聞き届けた。
やはり大人だな、と早希は思う。
相手が生徒ならば愚痴が延々と続くのだろうが、エスクイリーノの場合は仕事と割り切っていたとしても、少し苦笑いしながら呆れて終わりだ。
まるで可愛い子供を相手にするような感じで、全てさらりと流す。
見習って欲しいな、と早希は自分の周りに居る大人たちに思った。


「ん?始業式が終わったか。外が騒がしい」
「みたいですね」
「まだ居るのか?」
「迷惑なら帰りますよ」
「今更だろう」
「確かに」
「まぁ、迷惑だとも思ってないさ。話してて面白いからな」
「それは嬉しい限りで」


早希とエスクイリーノは軽口を叩き合って、外を見遣った。
生徒たちが歩くロータリーは高さの関係から見えないが、がやがやと元気な騒ぎ声が聞こえてくる。


「迎えが来るんじゃないか?」
「来る人、居ませんよ」
「そうか?たまに来る男の子が居るじゃないか。新学期初日となれば、来そうなもんだがな」
「……来ますね、確かに」


そんな噂された男子生徒は間もなく、エスクイリーノと早希の予想を裏切らずにやって来ることとなる。


:::to be CONTINUE:::
2008.09.29